
ボブ・ディラン「ライク・ア・ローリング・ストーン」
1960年代、アメリカの音楽と文化は大きな転換期を迎えていた。その中心にいたのが、フォークシンガーとしてキャリアをスタートさせたボブ・ディランである。彼が1965年に発表した「ライク・ア・ローリング・ストーン」は、単なるヒット曲にとどまらず、ロック史における革命的な作品として語り継がれている。
この曲は、従来のポップソングの枠組みを打ち破るような構成と詩的な歌詞、そしてディランの独特な歌声によって、音楽ファンやミュージシャンに強烈なインパクトを与えた。
曲の概要
「ライク・ア・ローリング・ストーン」は、ボブ・ディランがフォークからロックへと本格的に舵を切った最初の楽曲として知られている。6分を超える長尺のシングルであったにもかかわらず、ラジオ局における放送時間の制限をものともせず、世界中で話題を呼んだ。
イントロのオルガン(アル・クーパーによる即興演奏)とスネアドラムの一発から始まり、リスナーを一気に引き込む。続いてディランの吐き捨てるようなボーカルが乗り、社会に対する批判と個人的な感情が交錯した歌詞が続く。
この曲のテーマは「失墜」と「自立」。裕福な生活から転落した女性が、初めて自分の力で生きることの意味を知るというストーリーが語られている。
作詞・作曲とプロデューサー
作詞・作曲はもちろんボブ・ディラン自身が手がけている。彼の創作力がピークに達しつつあった時期であり、フォーク時代の物語性に加えて、ロック的なリズムとサウンドを融合させるという新しい試みに挑戦していた。
プロデューサーはトム・ウィルソンで、彼は当時コロンビア・レコードのA&R担当としてディランのレコーディングを支えていた。「ライク・ア・ローリング・ストーン」のセッションでは、従来のフォーク編成を離れ、エレキギター、オルガン、ドラムスなどを用いたロック編成で録音された。
中でも、オルガンを担当したアル・クーパーはもともとギタリストだったが、その場の成り行きでオルガンに挑戦し、結果的にこの曲を象徴するサウンドを生み出すこととなった。
チャート
1965年7月にリリースされた「ライク・ア・ローリング・ストーン」は、全米Billboard Hot 100チャートで最高2位を記録し、ディランにとって最大の商業的成功となった。
アメリカだけでなく、イギリスでもトップ10入りを果たし、各国の音楽シーンで大きな影響を与えた。また、ローリング・ストーン誌が選ぶ「史上最も偉大な楽曲500」では、長年にわたり1位に君臨し、ロック史における金字塔としての地位を築いている。
ミュージック・ビデオ
1960年代には現代のようなミュージック・ビデオ文化は存在していなかったが、「ライク・ア・ローリング・ストーン」には後年になって制作されたビデオがいくつか存在する。
中でも注目すべきは、2013年に公式に公開されたインタラクティブ・ミュージック・ビデオである。この映像では、テレビのチャンネルを切り替えるごとに異なるジャンルの番組の出演者たちが、この曲を口パクで歌っているというユニークな構成となっており、ディランの歌詞の普遍性を新しい形で表現している。
また、当時のライブ映像やドキュメンタリー映像でもこの曲の演奏シーンが多数記録されており、特に1966年のツアーでのエレクトリック・セットは、観客の賛否を巻き起こした伝説のステージとして語り草となっている。
Bob Dylan - Like A Rolling Stone (Live at Newport 1965)