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ジャズ名曲集

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ジャズというジャンルは、歌の有無にかかわらず聴く者の心を揺さぶる。しかし今回は、あえて歌のないインストゥルメンタルに絞って、名曲を紹介していく。ボーカルがないからこそ際立つ、演奏者たちの感性と技術。そんな珠玉の名演をセレクトした。

グレン・ミラー「イン・ザ・ムード」

グレン・ミラーの「イン・ザ・ムード」は、1939年にリリースされたスウィング・ジャズの代表曲だ。作曲はジョー・ガーランドで、グレン・ミラー・オーケストラによる編曲と演奏で大ヒットとなった。軽快なサックスのリフと躍動感あるスウィング・リズムが特徴で、当時のダンスホールを熱狂させ、戦時中には兵士や市民を勇気づけた。今も映画やテレビ、コンサートで頻繁に演奏され続ける不朽の名曲だ。

ベニー・グッドマン「シング・シング・シング」

ベニー・グッドマンの「シング・シング・シング(Sing, Sing, Sing)」は、1936年にルイ・プリマが作曲し、1937年にベニー・グッドマン楽団がインストゥルメンタルとして大ヒットさせたスウィング・ジャズの名曲だ。ジーン・クルーパの力強いドラムと、迫力あるホーンセクションが曲全体を牽引し、14分以上に及ぶ即興演奏でも知られている。特に1938年のカーネギー・ホールでの歴史的演奏は、ジャズ史に残る名演として語り継がれている。

デューク・エリントン「テイク・ジ・“A”・トレイン」

デューク・エリントン楽団の「テイク・ジ・A・トレイン」は、1941年にビリー・ストレイホーンが作曲したスウィング・ジャズの代表曲だ。ニューヨークの地下鉄A列車をモチーフにしたこの曲は、軽快で洗練されたメロディとスウィング感あふれるリズムが特徴となっている。エリントン楽団のテーマ曲として世界的に知られるようになり、ジャズ・スタンダードとして今も広く演奏され続けている。

デイヴ・ブルーベック・カルテット「テイク・ファイブ」

デイヴ・ブルーベック・カルテットの「テイク・ファイブ」は、1961年に大ヒットしたジャズの名曲で、アルバム『タイム・アウト』(1959年)に収録されている。ポール・デスモンドが作曲し、ジャズとしては珍しい5/4拍子を用いた独特のリズムが特徴だ。軽快なピアノのリフとアルトサックスの印象的なメロディが融合し、クール・ジャズを代表する作品として今も世界中で愛され続けている。

マイルス・デイヴィス「ソー・ホワット」

マイルス・デイヴィスの「ソー・ホワット」は、1959年に発表されたアルバム『カインド・オブ・ブルー』の冒頭を飾る代表曲だ。ベーシストのポール・チェンバースによる印象的なイントロに続き、モーダル・ジャズの手法を用いたシンプルで開放的なテーマが展開される。マイルスのトランペットとジョン・コルトレーンのサックスが織りなす即興演奏はジャズ史に残る名演であり、モダン・ジャズの象徴的な作品として高く評価されている。

ビル・エヴァンス「ブルー・イン・グリーン」

ビル・エヴァンスの「ブルー・イン・グリーン」は、1959年にマイルス・デイヴィスのアルバム『カインド・オブ・ブルー』に収録されたジャズ・バラードだ。作曲者についてはマイルスとエヴァンス双方の説があり、今も議論が続いている。静かで内省的な雰囲気を持つこの曲は、透明感のある和声と繊細なピアノの響きが特徴で、モーダル・ジャズを象徴する抒情的な名曲として愛されている。

ハービー・ハンコック「カンタロープ・アイランド」

ハービー・ハンコックの「カンタロープ・アイランド」は、1964年のアルバム『エンピリアン・アイルズ』に収録された代表的なジャズ・ナンバーだ。シンプルで反復的なピアノ・リフとファンキーなリズムが特徴で、ブルースの要素を取り入れつつ洗練されたモーダルな響きを生み出している。ジャズ・ファンクの先駆けともいえる一曲であり、現在でも多くのミュージシャンに影響を与え続けている。

アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ「モーニン」

アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの「モーニン」は、1958年のアルバム『モーニン』に収録された代表曲だ。ピアニストのボビー・ティモンズが作曲し、ゴスペルの影響を受けた印象的なピアノ・リフが特徴となっている。ブレイキーの力強いドラムとホーンセクションのソウルフルな響きが融合し、ハード・バップを象徴する名曲として今も多くのジャズファンに愛されている。

セロニアス・モンク「ラウンド・ミッドナイト」

セロニアス・モンクの「ラウンド・ミッドナイト」は、1940年代に作曲された彼の代表作であり、ジャズ史上最も有名なバラードのひとつだ。哀愁漂う旋律と独特の和声進行が特徴で、深夜の孤独や静けさを思わせる雰囲気を持っている。マイルス・デイヴィスをはじめ数多くのミュージシャンにカバーされ、スタンダードとして長く演奏され続けている。

ホレス・シルヴァー「ソング・フォー・マイ・ファーザー」

ホレス・シルヴァーの「ソング・フォー・マイ・ファーザー」は、1965年に発表された同名アルバムのタイトル曲で、彼の代表作のひとつだ。ブラジル音楽の影響を受けた軽快なリズムと印象的なピアノのリフが特徴で、ソウルフルかつ温かみのあるサウンドを生み出している。親しみやすいメロディとリズム感でジャズ・スタンダードとして定着し、今も多くのミュージシャンに演奏され続けている。

歌のないジャズだからこそ、奏者のニュアンスやアンサンブルの妙がより深く響いてくる。言葉がなくても、音だけで語ることのできるジャズの懐の深さを、今回紹介した名曲たちから感じ取ってほしい。

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