
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ「モーニン」
1958年、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズが放った一撃「モーニン(Moanin’)」は、ジャズの歴史において極めて重要な瞬間だった。
ソウルフルで親しみやすく、それでいて高度な演奏技術に裏打ちされたこの曲は、ハード・バップというスタイルの象徴として、今なお語り継がれている。
曲の背景と作曲者
「モーニン」は、ジャズ・メッセンジャーズの当時のピアニスト、ボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)によって作曲された。
リーダーであるドラマーのアート・ブレイキーは、この曲に強い説得力を感じ、アルバム『Moanin’』(1959年リリース、録音は1958年)をこのナンバーのタイトルに据えた。
この頃のジャズは、より泥臭く、より黒人音楽のルーツに根ざした方向へと向かっていた。「モーニン」は、ゴスペル、ブルース、スウィングの要素を融合させ、聴衆の心に直接訴えかける音楽として完成されている。
音楽的特徴
イントロは、ピアノのコール・アンド・レスポンス的なフレーズで始まる。これは当時の教会音楽を彷彿とさせるスタイルで、ブルージーでありながら明るさも感じられる。
テーマを経て、サックス奏者ベニー・ゴルソンやトランぺッターのリー・モーガンが次々に力強いソロを展開。
アート・ブレイキーのドラムは、ただのリズム以上に、曲全体を鼓舞し推進する原動力として機能している。
全体の演奏はタイトでスリリング、しかし同時にどこか土臭く、人間味にあふれている。
社会的・文化的意義
「モーニン」は、ジャズのクラブから教会、そして黒人コミュニティの感情をそのまま音楽に乗せたような曲だ。
リリース当時から爆発的な人気を博し、以降のジャズの方向性に大きな影響を与えた。
この曲は、形式としてはオーソドックスだが、“演奏者の個性”と“魂”こそがジャズであるという哲学を体現している。
その精神は、今日のライブジャズやストリートパフォーマンスにも受け継がれている。
おわりに
「モーニン」は、ジャズをまだよく知らない人にとっても、心にすっと入ってくる不思議な力を持っている。
ゴスペル風の親しみやすいメロディと、スリリングな即興演奏が同居するこの曲は、ハード・バップの入門にも、深掘りにも最適だ。
アート・ブレイキーのリーダーシップ、ティモンズの作曲センス、モーガンやゴルソンの個性が見事に融合したこの1曲は、まさに「生きたジャズ」の象徴といえるだろう。