音楽

マイルス・デイヴィス「ソー・ホワット」

Miles Davis

マイルス・デイヴィス「ソー・ホワット」

1959年、ジャズの世界は大きく動いた。
その年にリリースされたアルバム『Kind of Blue』は、マイルス・デイヴィスのキャリアだけでなく、ジャズそのものの在り方を変えた歴史的作品だった。
中でも冒頭を飾る「ソー・ホワット(So What)」は、モード・ジャズという新たな地平を切り開いた象徴的な1曲だ。

曲の概要と背景

「ソー・ホワット」は、1959年3月2日にニューヨークのコロムビア30丁目スタジオで録音された。
アルバム『Kind of Blue』の1曲目として収録され、作曲はマイルス・デイヴィス自身。
タイトルの「So What(だから何?)」には、マイルスらしいクールな態度と反骨精神が表れている。

それまでのジャズは、コード進行に沿って複雑に即興を繰り広げる「ビバップ」が主流だったが、マイルスはよりシンプルで開放的なアプローチを選んだ。それが「モード・ジャズ」である。

音楽的特徴

この曲は、DドリアンとE♭ドリアンというわずか2つのモード(音階)だけを使って展開されている。
構成は非常にシンプルだが、それゆえに各プレイヤーの即興演奏が際立つ。

冒頭、ピアニストのビル・エヴァンスによる静かで印象的なイントロが鳴り響き、そこに続くのがベースによる「ソー・ホワット・コード」と呼ばれるフレーズ。
このフレーズがモチーフとなって、マイルスのミュート・トランペット、ジョン・コルトレーンのテナーサックス、キャノンボール・アダレイのアルトサックスが次々に即興ソロを繰り広げていく。

歴史的意義と影響

「ソー・ホワット」は、ジャズの即興=コードチェンジという固定観念を打ち壊した点で非常に画期的だった。
たった2つのモードだけでここまで深い音楽を作り上げられるという事実は、多くのジャズ・ミュージシャンに自由と可能性を与えた。

また、この曲を通してビル・エヴァンスの繊細なタッチや、コルトレーンの深く鋭い音色、キャノンボールのソウルフルなフレーズなど、各プレイヤーの個性が鮮明に記録されており、まさにジャズ黄金時代の縮図とも言える。

おわりに

「ソー・ホワット」は、派手さではなく、空間・静寂・ニュアンスで聴かせる革新的なジャズ。
その冷静さの裏にある熱と、制限された構造の中での創造性の爆発が、今も聴く者の心を惹きつけてやまない。

この1曲を聴くことで、「ジャズとは何か?」という問いに対する、マイルス・デイヴィスなりの明確な答えが聞こえてくるはずだ。

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