
マーチ(行進曲)は、軍隊や式典、パレードなどで演奏されるリズミカルな音楽ジャンルだ。力強く規則的なビートと勇壮なメロディは、人々に勇気と一体感をもたらしてきた。ここでは、世界中で親しまれている代表的なマーチの名曲を紹介する。
スーザ「星条旗よ永遠なれ」
ジョン・フィリップ・スーザの「星条旗よ永遠なれ」は、1896年に作曲されたアメリカを代表する行進曲だ。力強く華やかな旋律とリズミカルな展開が特徴で、アメリカの国民的行事やパレードで盛んに演奏される。スーザ自身が「行進曲の王」と称されるきっかけにもなった名曲で、アメリカ合衆国の公式行進曲として今も広く親しまれている。
エルガー「威風堂々 第1番」
エドワード・エルガーの「威風堂々 第1番」は、1901年に初演された行進曲で、荘厳で力強い旋律が特徴だ。特に中間部の美しい旋律は「希望と栄光の国」として歌詞がつけられ、イギリスの第2の国歌とも呼ばれている。式典や記念行事などで頻繁に演奏され、威厳と高揚感に満ちた雰囲気を醸し出すクラシックの名曲として世界中で愛されている。
ワーグナー「双頭の鷲の旗の下に」
ワーグナーの「双頭の鷲の旗の下に」は、1872年に作曲された行進曲で、オーストリア・ハプスブルク帝国の象徴である双頭の鷲にちなんで名付けられている。力強く荘厳な旋律と華やかな展開が特徴で、ヨーロッパ各地の軍楽隊や式典で広く演奏されてきた。堂々たる響きが聴く者に威厳と誇りを感じさせる、代表的なマーチのひとつだ。
ベートーヴェン「トルコ行進曲」
ベートーヴェンの「トルコ行進曲」は、劇音楽「アテネの廃墟」Op.113の中の一曲として1811年に作曲された。トルコ風の打楽器リズムを模した軽快で華やかな旋律が特徴で、行進曲としての楽しさと異国情緒をあわせ持つ。親しみやすいメロディのため独立して演奏されることも多く、ベートーヴェンの作品の中でも特に人気の高い小品のひとつだ。
ヴェルディ「凱旋行進曲」
ヴェルディの「凱旋行進曲」は、1871年初演のオペラ『アイーダ』第2幕で演奏される華やかな行進曲だ。エジプト軍の勝利を祝う場面で響き渡る壮大な音楽は、輝かしいファンファーレと重厚な合唱によって壮麗な雰囲気を作り出している。オペラの中でも特に有名な場面であり、独立して演奏会や式典でも広く親しまれる名曲となっている。
ベルリオーズ「ラコッツィ行進曲」
ベルリオーズの「ラコッツィ行進曲」は、ハンガリーの愛国的な旋律をもとにした行進曲で、1846年に劇音楽『ファウストの劫罰』の一部として編曲された。力強いリズムと華やかな管弦楽の響きが特徴で、ベルリオーズ特有の壮大なオーケストレーションによって一層の迫力を持っている。独立して演奏される機会も多く、華やかなコンサートピースとして世界中で親しまれている。
ヨハン・シュトラウス2世「ラデツキー行進曲」
ヨハン・シュトラウス2世の「ラデツキー行進曲」は、1848年に作曲されたウィーンを代表する行進曲で、オーストリアの英雄ヨーゼフ・ラデツキー将軍を讃えて書かれた作品だ。軽快で勇ましいリズムと明るい旋律が特徴で、新年のウィーン・フィル・ニューイヤーコンサートでは毎年恒例のアンコール曲として演奏され、聴衆が手拍子で参加することで知られている。華やかで祝祭的な雰囲気を持ち、世界中で愛され続けるクラシックの名曲だ。
フランク・W・ミーチャム「アメリカン・パトロール」
フランク・W・ミーチャムの「アメリカン・パトロール」は、1885年に作曲されたマーチで、アメリカの愛国心や活気を象徴する楽曲だ。軽快なリズムと親しみやすい旋律が特徴で、のちにグレン・ミラー楽団などによってスウィング・ジャズ風にアレンジされ、さらに広く知られるようになった。行進曲としての力強さとエンターテインメント性を兼ね備え、今もなお多くの演奏会や録音で取り上げられる名曲だ。
瀬戸口藤吉「抜刀隊行進曲」
瀬戸口藤吉の「抜刀隊行進曲」は、1885年に陸軍軍楽隊のために作曲された日本初の本格的な洋式行進曲だ。西南戦争で活躍した抜刀隊を讃えるために作られ、勇壮で力強い旋律が特徴となっている。日本の軍楽発展の礎となった作品であり、今日でも吹奏楽や式典で演奏される機会が多い名曲だ。
メンデルスゾーン「『真夏の夜の夢』より結婚行進曲」
メンデルスゾーンの「『真夏の夜の夢』より結婚行進曲」は、1842年に劇付随音楽として作曲された名曲で、結婚式の定番として世界中で親しまれている。華やかで堂々としたファンファーレ風の冒頭と明るい旋律が特徴で、花嫁の入場や退場シーンを盛り上げる音楽として広く定着した。シェイクスピアの戯曲に基づく舞台音楽の一部でありながら、単独曲としても圧倒的な存在感を持ち、クラシックの名旋律として多くの人々に愛され続けている。
マーチは、その力強いリズムと明快な構成によって、聴く人に活力と勇気を与えてきた。今回紹介した名曲たちは、式典や演奏会だけでなく、日常の中でも心を奮い立たせてくれる存在だ。ぜひ、これらのマーチを通して、音楽の持つ力強さを感じ取ってほしい。