
ベートーヴェン「トルコ行進曲」
「トルコ行進曲(Turkish March)」というと、モーツァルトのピアノソナタ第11番の終楽章を思い浮かべる人も多いが、実はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンにも同名の名曲が存在する。
このベートーヴェン版の「トルコ行進曲」は、オーケストラと合唱を伴う劇音楽『アテネの廃墟(Die Ruinen von Athen)』の中の一曲として書かれた作品であり、ベートーヴェンらしい力強さとユーモアが光る魅力的なマーチである。
曲の概要
ベートーヴェンの「トルコ行進曲」は、1811年に作曲された舞台音楽『アテネの廃墟』の第4曲「トルコの行進曲(Marcia alla turca)」として登場する。
この劇音楽は、ハンガリーのペシュト(現在のブダペスト)に新しく建てられた劇場の開場記念のために書かれたもので、政治的・文化的テーマを背景にした壮大な内容となっている。
「トルコ行進曲」はその中でも特に人気の高い楽曲であり、のちにピアノ用や吹奏楽用など、さまざまな編曲版が作られて広く演奏されるようになった。
音楽的特徴
この行進曲は、明快なリズムとトルコ風の打楽器(トライアングル、シンバル、大太鼓)による異国情緒あふれるサウンドが特徴だ。
「トルコ風(alla turca)」というスタイルは、18世紀から19世紀初頭にかけてヨーロッパで流行したオスマン帝国の軍楽に由来し、ベートーヴェンもその流行を巧みに取り入れている。
曲全体は、快活でユーモラスな雰囲気に包まれており、ベートーヴェンの重厚な交響曲とはまた違った一面を見せてくれる。
テンポはやや速めで、軽快なリズムと反復されるテーマが印象的であり、聴衆を楽しませる構成となっている。
受容と編曲
ベートーヴェンの「トルコ行進曲」は、19世紀後半から20世紀にかけてさまざまな形で再編曲されており、特にピアニストのアントン・ルービンシテインや作編曲家ルイ・ケーラーなどによるピアノ用のアレンジが知られている。
また、20世紀には電子音楽の先駆者ワルター・カーロス(後のウェンディ・カーロス)によるシンセサイザー版や、児童向けアニメーションなどへの引用もあり、クラシックファン以外にも親しまれている。
まとめ
ベートーヴェンの「トルコ行進曲」は、彼の音楽の中では比較的軽快で親しみやすく、それでいてベートーヴェンらしい躍動感と構成力が光る作品だ。
異国風のリズムと明快なメロディは、多くの編曲や演奏を通じて現代にも受け継がれており、あらゆる世代の聴衆を魅了し続けている。
ベートーヴェンのユーモラスで洒落た一面に触れたい人には、ぜひおすすめしたい一曲である。