
エルヴィス・プレスリー「ハウンドドッグ」
エルヴィス・プレスリーは、ロックンロールを世界に広めた最も影響力のあるアーティストの一人だ。彼の代表曲のひとつが「ハウンド・ドッグ」だ。この曲はもともと1952年にリリースされたブルースの楽曲だったが、エルヴィスが1956年にカバーし、世界的なヒットとなった。彼のバージョンは、ロックンロールの歴史における象徴的な楽曲のひとつとして知られ、彼のパフォーマンスや音楽スタイルを決定づけるものとなった。
ここでは、「ハウンド・ドッグ」の背景、制作陣、チャートでの成功、そして映像としてのインパクトについて詳しく解説する。
曲の概要
「ハウンド・ドッグ」は、もともと1952年にウィリー・メイ・“ビッグ・ママ”・ソーントンによって録音されたブルース・ナンバーだった。彼女のバージョンは、ゆったりとしたリズムと力強いヴォーカルが特徴で、ブルースの伝統に根ざしたサウンドだった。
エルヴィス・プレスリーのバージョンは、1956年7月にリリースされ、原曲とは大きく異なるアレンジになっている。テンポが速くなり、より攻撃的なギターとリズミカルなドラムが加わったことで、エネルギッシュなロックンロールの曲へと生まれ変わった。エルヴィスの激しいヴォーカルとパフォーマンスが加わり、曲全体がよりダイナミックになった。
歌詞の内容は、相手を「ハウンド・ドッグ(猟犬)」と呼び、「もう騙されない」と歌うものだ。ブルースの世界では、このような比喩的表現がよく使われていたが、エルヴィスのバージョンではよりシンプルでダイレクトな印象になっている。
作詞・作曲とプロデューサー
「ハウンド・ドッグ」は、作詞・作曲家コンビのジェリー・リーバーとマイク・ストーラーによって書かれた。彼らは当時まだ若かったが、のちに「監獄ロック」「スタンド・バイ・ミー」「ヤクティ・ヤク」などのヒット曲を手がけることになる。この曲は、もともとブルース・シンガーのビッグ・ママ・ソーントンのために書かれたが、後にエルヴィスによって大胆にアレンジされることになった。
エルヴィスのバージョンのプロデュースを担当したのは、サム・フィリップスのもとで働いていたスティーヴ・ショールズだ。彼はRCAレコードのA&R担当として、エルヴィスの最初の大ヒットアルバム『Elvis Presley』の制作にも関わっていた。彼のプロデュースによって、「ハウンド・ドッグ」は、ロックンロールの象徴的なサウンドに仕上がった。
また、エルヴィスのバックバンドであるスコティ・ムーア(ギター)、ビル・ブラック(ベース)、D.J.フォンタナ(ドラム)が演奏を支え、シンプルながらもパワフルなサウンドを作り上げた。特にスコティ・ムーアのギターリフは、ロックンロール史における重要な要素となっている。
チャート
エルヴィス・プレスリーの「ハウンド・ドッグ」は、1956年のリリース直後に大ヒットを記録した。アメリカのビルボード・ホット100では、11週間連続で1位を獲得し、エルヴィスのキャリアにおける最も成功したシングルのひとつとなった。
また、R&Bチャートやカントリー・チャートにもランクインし、当時の音楽市場でのエルヴィスの影響力の大きさを示した。イギリスのチャートでも上位に入り、彼の国際的な人気を確立するきっかけとなった。
「ハウンド・ドッグ」は、B面に「ドント・ビー・クルーエル」を収録したシングルとして発売されたが、両曲ともに大ヒットし、ロックンロール時代の幕開けを告げる重要なシングルとなった。
ミュージック・ビデオ
当時、ミュージック・ビデオという概念はまだ確立されていなかったが、「ハウンド・ドッグ」はエルヴィスのテレビパフォーマンスによってさらに有名になった。特に、1956年6月5日に放送された『ミルトン・バール・ショー』でのパフォーマンスは、今でも語り継がれている。この番組で、エルヴィスはギターを持たずに全身を使ってパフォーマンスを行い、腰を激しく振るダンスを披露した。この動きが当時の視聴者に強烈な印象を与え、一部の保守的な人々からは「過激すぎる」と批判された。
また、同年7月1日に『スティーヴ・アレン・ショー』に出演した際には、批判を意識したプロデューサーが「猟犬と一緒に歌う」という演出を加えた。このパフォーマンスでは、エルヴィスは直立した姿勢で歌わされることになり、明らかに不本意な様子だった。
その後、9月9日に出演した『エド・サリヴァン・ショー』では、カメラが彼の腰から上しか映さないように配慮されたが、それでもパフォーマンスのエネルギーは視聴者に伝わり、大きな話題となった。
Elvis Presley "Hound Dog" (October 28, 1956) on The Ed Sullivan Show
エルヴィス・プレスリー「冷たくしないで」
エルヴィス・プレスリーの「冷たくしないで」(原題:"Don't Be Cruel")は、1956年にリリースされた名曲で、「ハウンド・ドッグ」と深い関係のある一曲だ。この曲は、エルヴィスの代表的なヒットのひとつで、ロックンロールとR&Bを融合させたサウンドが特徴になっている。「ハウンド・ドッグ」と同じ年にリリースされ、どちらも彼の音楽スタイルを象徴する楽曲として大ヒットを記録した。
「冷たくしないで」は、恋愛における心の葛藤や相手への切ない思いを表現しており、エルヴィスの感情的な歌唱が際立つ作品になっている。この曲と「ハウンド・ドッグ」は、エルヴィスの音楽的アイドル像を確立した重要な楽曲だ。